「秘密基地」大なり小なり誰しもがみな幼少期もしくは10代の頃に一度は構築を試みる。選ばれた人しか入ることを許されない領域だ。いい大人であっても、この言葉に少しだけ心を動かされる。現実は厳しい事情や状況が多い。だからこそ、それらを忘れさせてくれるような秘密の環境が必要だ。そんな環境を求めて今回は、インターネットの片隅に秘密基地を作ることにした。
自由と学び
秘密基地では2つの事を大切にしたかった。
1つめは自由だ。ある程度の自由度が認められていて、ゴールを強制されないことを大切にしたかった。別に何かを解決したり、クリアしたりしたいわけじゃない。もしそれをするにしても、それは自分で決定すべきだ。そしていざとなればどのようにでも変更可能であることを約束されていて欲しい。もう労働や納税を強制されたくはない。
2つめは学びだ。何かに没頭した結果、時間を無駄にしたなと思いたくない。貴重な時間を投じるのだから、気が付かないうちに実益を得たい。資格の勉強はしたくないが、世界中の人とは話ができるようになっていたい。
そんな事を考えながら、良いものがないか調べていくとMinetestに行き着いた。舞台としては悪くない。そこでMinetestを秘密基地として構築していくことにした。
Minetestとは
Minetestはオープンソースのボクセルゲームである。ボクセルゲームという言葉はあまり聞かないが、要はオープンソースのMinecraftクローンだ。
なぜMinecraftではなくMinetestを使うのか?
MinecraftにはJava版と統合版が存在するが、両者ともオープンソースではなく、自由ソフトウェアではない。Minecraftサーバー自体はダウンロードし起動もできるが、プレイする場合はクライアントの購入が必要になる。またサーバーの機能を直接書き換えたり、内部の構造を調べたりといったことはできない。
元々の構想としてオープンソースにする構想もあったようだ。初期の頃、オープンソースにする可能性について、開発者が言及する内容の記事ををMinecraftのWebページに掲載していた。これはWebアーカイブとして保存されている1。その中で売上が下がったらパブリックドメインとしてコードを公開する趣旨の記述がある。
現在の売上はどうかわからないが、Mojang StudiosはMicrosoftに買収され、Notchは既に会社から去っている。Microsoftアカウントが必須になるなどの変更がなされている。それらを考えるとMinecraftがオープンソースとして公開されることはまずないだろう。
一方、MinetestというMinecraftクローンも存在し、そこそこ人気がある。これは自由ソフトウェアでありソースコードを公開しているため調査や改変が可能だ。それが今回Minetestを使う大きな理由になった。
住人
この世界に自分一人だけというのはちょっと寂しい。そこで何人かを誘って住人として参加してもらい、週2回(水曜日と木曜日)集まる時間を設定した。今は主にプレイをしているメンバーは4人だが、もうすぐ更に1人増える予定だ(はやく元気になって退院してね。待ってる)。
時間になるとGoogle Meetでビデオチャットしながら、家を建築したり、海上道路を整備したりしている。ここまで熱中するとは思わなかったが、なかなか楽しく時間を忘れて遊んでしまう。作った海上道路がデコボコすぎると文句を言われたり笑われたりしながらも、世界の開発が進んでいくのは楽しいものだ。また人とのふれ合いという意味でも大きく意味があった。飽きられないように、活動したいと思えるような環境と仕組みを整備していきたいと思う。
早朝開発
サーバを運用しはじめた初期は、毎週水曜日と木曜日のだいたい午後19時30分頃に集まり開発をしていた。しかし作業が終わるのは深夜24時を過ぎてしまうこともあった。これはとても良くない。体に悪いことは排除するべきだし、この状況を習慣にしてしまうと、のちのちブラック企業な状態となり、苦しむことになるかもしれない。
もしやるのであればむしろ朝、早起きして開発するぐらいがよい。午前4時から午前6時ぐらいまでを、開発時間としてサーバーを開放すると、早起きも習慣化しそうだし、その日1日を有意義に使用できそうだ。これは運用ルールで可能だ。メンバーに提案たところ、結構好感触だった。そこで、もちろん今までの時間も開放するが、午前4時から午前6時30分までを活動推奨時間として、開放することにした。
2022年09月から実施しているが、だいたい数人は毎日ログインしてきている。こういった制約があると、その時間に作業をするモチベーションになる。また日常生活に影響を与えないような時間という所も良い。朝ログインは普通に早起きの習慣化にも一役買うことができる。だから今は早朝ログインボーナスのような仕組みができないか検討している。
スキン改善
始めは初期スキンを使用していた。マインクラフトのスキンは初期の状態ですでにかなり良い感じだ。自分でビルドしたMinetest serverを使用している場合はそうではない。ペラペラで緑色の人っぽい何かがプレイヤーとして投影されている。可愛くない。もっと可愛いキャラクターが投影されて欲しい。おそらく設定とかmod導入でかなり改善されるものなので、早めに調査し対応したい。
あとから確認したことだが、これは開発者用のテストモードだとこのような見た目になるようだった。通常モードで行うと所謂マイクラのようなスキンが適応された。
更にスキン用のModをインストールして何種類かのスキン変更ができるようになった。
https://blog.symdon.info/posts/1665104416/
その他やったこと
以下にその他に関連してやったことのログを記載する。
構想
環境を構築し世界の開発を進めていくと、いろいろとやりたいことが増えてくる。全てを実現はできないが、できることからひとつずつ実現していければと思う。
ナイトリービルド
実行しているバイナリはしばらく前にビルドしたものを使用している。気が向いた時にバイナリをビルドしなおしているが、毎日最新の状態をビルドしそのバイナリを使用するようにしたい。今はまだ誰もソースを改変するようなことはしていないが、Githubのリポジトリをフォークし、プルリクを作成することであらゆる機能拡張を住人が行えるように環境を整備したい。現状はバニラの状態で使用しているが、ソースを改変した場合はソースコードの公開もすべきだ。その対応もかねて、上記の機構を準備しよう。
ログインボーナス
毎朝、早朝開発推奨時間を設定し、開発という名のゲームをしている。前述もしたが、毎日数名はログインしていて、早朝に開発し、そして通勤や通学の時間になると去っていく。これはとても良い習慣だ。だからこの習慣を促進するための取り組みを行いたい。
今の所考えているのは、夏休みのラジオ体操の参加スタンプのようなものを提供しようと考えている。今の子供達の状況は分からないけれど、私が小学生の頃、夏休み中は近所の広場に集まってラジオ体操をするという風習があった。それが学校のイベントだったのか地域のイベントだったのかは覚えていないが、6時30分に広場に行くと、誰かが持ってきたラジオ受信機からラジオ体操の音楽が流れ出す。そして参加スタンプなるものが存在し、参加すると台紙に参加したことを証明するスタンプを押してもらえるというものだった。よく考えるとそれのどこが嬉しかったのか理解できないけれど、当時はそのスタンプを押してもらうために参加していた記憶がある。なんでもそうかもしれないが、そろっていったり、集まっていったりすることは、嬉しいものなのかもしれない。
このような体験を、模倣できるような機構を提供することを計画している。
第2世代のインフラのシステム構成
第2世代のインフラはとてもシンプルな構成にした。理由は単純で、面倒を見る時間的な余裕があまりないからだ。Google Cloudの無料の範囲枠内で構成するため、GCEの無料用のインスタンスを利用する。必然的にリージョンはオレゴンとなる。日本からの距離はそこそこあるが、この地理的な距離が問題になるほど通信は発生しないと思われる。現時点で特段問題は発生していない。ちなみに第1世代のアーキテクチャは記述することさえはばかられるようなあまりにお粗末なアーキテクチャであったため、闇に葬ることにした。
+---------------------------------------------+
| |
| Google Cloud |
| |
| |
| +-----------------------------------+ |
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| | game server 1 | |
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| | - Instance: e2-micro | |
| | - CPU: Intel Broadwell(x86/64) | |
| | - vCPU: 2 | |
| | - RAM: 1GB | |
| | - Disk: SCSI 30GB | |
| | | |
| +-----------+-----------------------+ |
| | |
| +----+----+-----+ |
| | | | |
| | | | |
+----------|---------|-----|------------------+
| | |
| | |
+----------|------+ | | +--------------------+
| | | | | | |
| Area 1 | | | | | Area 2 |
| | | | | | |
| +--------+---+ | | | | +---------------+ |
| | | | | | | | | |
| | Client 1 | | | +----+ Client 2 | |
| | | | | | | | | |
| | | | | | | | | |
| +------------+ | | | | +---------------+ |
| | | | | |
+-----------------+ | | | |
| | | +---------------+ |
| | | | | |
| +----+ Client 3 | |
+-----------------+ | | | | | |
| | | | | | | |
| Area 3 | | | | +---------------+ |
| | | | | |
| +------------+ | | | | |
| | | | | | | +---------------+ |
| | Client 5 +-----+ | | | | |
| | | | +----+ Client 4 | |
| | | | | | | |
| +------------+ | | | | |
| | | +---------------+ |
+-----------------+ | |
+--------------------+
作業ログ
以降はおおむねシステム構築時の作業ログだ。何かの参考になればよいと思う。
インストール
インストール方法はいくつかある。今回はmacOSに直接インストールする。Dockerを用いるほうが簡単だが、設定を何度も変更するなどして再起動を繰り返したかったため直接インストールすることにした。
brew install minetest
起動
/usr/local/opt/minetest/minetest.app/Contents/MacOS/minetest
設定
/usr/local/opt/minetest/minetest.app/Contents/MacOS/minetest
画面サイズがおかしい問題
Homebrewでインストールしたバイナリで起動すると画面サイズがおかしな状態になることがわかった。Github上のPull requestを確認すると、既に修正されmasterブランチにマージされていた。
https://github.com/minetest/minetest/issues/10654
Docker Imageのビルド
前述の不具合は既に修正されているが、Homebrewでインストールしたバイナリは、まだそれに追い付いていないようだった。そのため、最新のソースからビルドすることにした。macOS上でビルドすることもできたが、ビルド環境を整備することが面倒であったため、Docker ImageとしてDocker上でビルドすることにした。
git clone https://github.com/minetest/minetest.git --depth 1
cd minetest
docker build --ssh=default --tag minetest -f Dockerfile .
macOS上でのソースからのビルド
macOS上でビルドすることもできたが
macOS上でビルドする手順も記録しておく。これを実行すると minetest-5.6.0-dev-osx.zip
のような名前のZIPファイルが生成される。このZIPファイルの中に、macOS用のアプリケーション形式のディレクトリが作成されている。それをダブルクリックするか、openコマンドで起動すれば良い(はず)。
brew install cmake curl freetype gettext libjpeg libogg libpng libvorbis luajit
git clone https://github.com/minetest/minetest
cd minetest
git clone https://github.com/minetest/irrlicht lib/irrlichtmt
cmake . -DRUN_IN_PLACE=0
make -j$(nproc)
make package
ただ確認したところ以下のエラーを出力し起動に失敗した。
The application cannot be opened for an unexpected reason, error=Error Domain=NSOSStatusErrorDomain Code=-10827 "kLSNoExecutableErr: The executable is missing" UserInfo={_LSLine=3863, _LSFunction=_LSOpenStuffCallLocal}
OSはmacOS 12.5 Monterey、CPUはIntel Core i5を使用している。環境に起因する問題だとは思うが、調査できていないため原因はわかっていない。
Minetest Organizationが所有する主なリポジトリ
Minetest Organizationが所有する主なリポジトリとその用途をまとめた。ただしドキュメントなどのリポジトリは省略した。
リポジトリ | 主な言語 | 内容 |
---|---|---|
minetest | C++ | Minetest本体。 |
minetest/irrlicht | C++ | オープンソースの3DエンジンであるIrrlichtのfork。MinetestではそれをMinetest用に拡張して利用している。 |
contentdb | Python | データベース。SQLAlchemy, Flask, Celeryを利用している。 |
minetest_game | Lua | ゲームエンジン。 |
minetestmapper | C++ | MinetestのMapから概要の画像を生成する。 |
minetest_android_deps | Shell | Androidの依存関係を解決するためのスクリプト。 |
serverlist | - | 公開されているMinetestのサーバーの一覧。 |
io_scene_x | Python | Blender2.8以降用のExporter。 |
B3DExport | Python | Blender2.7以前用のExporter。 |
サーバーとして起動可能なバイナリをコンパイルする
BUILD_CLIENTとBUILD_SERVERを制御することで、サーバー用のバイナリやクライアント用のバイナリをビルドできる。今回はサーバー用のバイナリが必要になるのでそれをビルドする。
cmake . -DRUN_IN_PLACE=0 -DBUILD_SERVER=TRUE -DBUILD_CLIENT=FALSE
make -j$(nproc)
make package
ビルドしたバイナリはプロジェクト直下に配置しないと、init.luaのPATHの辻褄が合わなくて起動に失敗する。おそらく回避する方法はあるが、調査しきれなかった。仕方がないので、バイナリをリポジトリの上部にコピーして使用する。
cp bin/minetestserver .
cp bin/minetest .
初期マップの作成
minetestをプレイするためにはworldを作成する必要がある。
minetest_gamesを取り込む
どのようなモードのゲームをプレイするかは、gamesディレクトリに格納されているゲームから選択できる。初期状態ではdevtestのみが入っている。これは開発者用のゲームで初期状態から最強の装備をしており、見たこともないようなブロックがあったりする。また木などはなく、クラフトもできない。これは開発したものの動作を確認するためのゲームだ。サバイバルモードのような状態でプレイすることはできない。
通常のゲームとしてプレイするためにはminetest_game2を取り込む必要がある。これはminetest本体とは別のリポジトリで管理されており、別途取得する必要がある。今回は手動でGithubから取得することにした。
cd games
git clone [email protected]:minetest/minetest_game.git minetest_game
これを用いるとdevtestではない通常のゲームとしてminetestを楽しめる。
マップの作成
CLIからマップを作成する方法を調べたがわからなかった。マップが作成できさえすればよいので、ビルドしておいたクライアントを起動し、そこから手動でマップを作成した。
./minetest
ビルドしたクライアントがキーボードの入力を受け付けない問題
マップを作成するためにクライアントを起動したが、キーボードの入力を受け付けてくれなくて困った。なぜかは不明だが、不便すぎるので調査する。実際にプレイする際は、Homebrewでインストールしたクライアントを使用した。
サーバーの起動
コピーしたバイナリを指定してサーバーを起動する。
./minetest
起動に成功すると以下のような出力が表示され、30000ポートを開く。
bash-5.1$ ./minetestserver --config ./minetest.conf --worldname world1 2022-07-18 18:34:33: [Main]: Using world specified by --worldname on the command line 2022-07-18 18:34:33: WARNING[Main]: Game Minetest Game at /opt/ng/minetest/games/minetest_game: 2022-07-18 18:34:33: WARNING[Main]: "name" setting in game.conf is deprecated, please use "title" instead __. __. __. _____ |__| ____ _____ / |_ _____ _____ / |_ / \| |/ \ / __ \ _\/ __ \/ __> _\ | Y Y \ | | \ ___/| | | ___/\___ \| | |__|_| / |___| /\______> | \______>_____/| | \/ \/ \/ \/ \/ 2022-07-18 18:34:33: ACTION[Main]: World at [/Users/sximada/Library/Application Support/minetest/worlds/world1] 2022-07-18 18:34:33: ACTION[Main]: Server for gameid="minetest" listening on 0.0.0.0:30000. 2022-07-18 18:34:51: ACTION[Server]: test [127.0.0.1] joins game. List of players: test
サーバーを起動したら、クライアントを起動にオープニングの画面から接続情報を入力する。